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【映画ダンケルク】防波堤の1週間をネタバレ解説 トミーのラストの表情

ダンケルク|クリストファー・ノーラン監督

(使用写真:WarnerBros.com | Dunkirk | Movies

こんにちは、ユリイカです。
今回は、映画『ダンケルク』の「防波堤の1週間」について解説・考察します。


1.THE MOLE|one week 防波堤の1週間

「防波堤」では、一週間(7日間)という単位でストーリーが描かれます。

主な登場人物

「防波堤」では、陸で戦うさまざまな兵士の視点から「ダイナモ作戦」が描き分けられます。
主な登場人物を視点別にすると、次の3視点となります。

【視点①:兵士】
・逃げ惑う兵士…トミー(イギリス陸軍二等兵)
・話さない兵士…ギブソン(フランス陸軍二等兵)
ハイランダーズ…アレックス(イギリス陸軍・高地連隊)
※ハイランダーズ=高地連隊…スコットランドの歩兵連隊スコットランド人(ハイランド人)の勇猛さはヨーロッパで有名だった。中でも「第79連隊」は、1940年5月のダンケルクの戦いにキルトを着用して参加。戦場でキルトを着用した最後の部隊となった。(参考・引用:ロイヤル・スコットランド連隊 – Wikipedia
【視点②:ダイナモ作戦】
撤退作戦の指揮官…ボルトン海軍中佐 ※演:ケネス・ブラナー
・将校…ウィナント陸軍大佐
【補足】階級は「大佐>中佐」、つまり「ダイナモ作戦」を知るボルトン海軍中佐の方が下位身分です。
【視点③:観客】
最後の二等兵= “観客”
↑の理由については、最後の “二等兵”の正体「ダンケルクの目撃者をご参照ください。

「海」・「空」に比べると、登場人物が多く、シーンによっては兵士の見分けがつきません
ですが、それすら私はノーラン監督の計算だと考えています。この理由については後述します。

ストーリー

「防波堤」で起きることを大まかにまとめると、以下のようになります。

【第一幕】…兵士たちの状況
・「防波堤」で兵士たちは、迎えの艦艇を待っている
(たとえ空襲を受けても、その場に伏せて祈るしかない状況
【第二幕】…兵士たちの分岐
兵士たち生還(脱出)のために試行錯誤を繰り返す
→①トミーらトロール船(ただし銃撃を受けて舟底に穴が開いている)で沖へ
(艦艇への爆撃に巻き込まれるも、「海」の父親らによって一部は救出
→②「防波堤」で待ち続けた兵士たちは、「海」の民間船舶によって沖へ
ダイナモ作戦の成功
※上記①②のように【分岐】をするものの、“救出された” というストーリー展開においては同じ
【第三幕】…兵士たちの合流
多くの兵士たちがダイナモ作戦によってイギリス帰還
(①②の兵士たちが港で合流、同じ列車へ乗り込む
ボルトン海軍中佐は「防波堤」で目覚めた “最後の二等兵” を脱出させその場に残る

それぞれ一幕ずつ解説していきます。

【大前提】「防波堤」の主人公は “誰か個人” ではない

「防波堤」のパートでは、【第二幕】で「兵士たちのストーリー」が分岐します。

トミーギブソン:能動的
・【第一幕】で救ったアレックス(ハイランダーズ)に付いて、トロール船に乗り込む
その他の兵士たち:受動的
ボルトン海軍中佐、ウィナント陸軍大佐と共に、迎えの船を待つ

登場人物には、名前やバックストーリー(過去・背景)があるのが普通です。
例えば「海」ミスター・ドーソンには、“すでに長男を亡くしている”“その長男は「戦闘機パイロット」だった”という設定がありました。(参照:【完全解説】映画『ダンケルク』【3】THE SEA|one day「海の1日」(ネタバレあり)・父親の旗に隠された設定 – ユリイカ (yureeeca.com)

しかし、「防波堤」は違います
登場人物の描き分けに使用されているのは、いずれも “個性” ではなく “属性” です。
(二等兵、ハイランダーズ、将校(大佐・中佐)、国籍など)
ノーラン監督が意味もなく “個性” を排除するはずがないので、これは意図的になされています。

つまり「防波堤」における主人公「兵士」という大きな単位であり、それ以下の個性は本作において重要ではありません。
二等兵、ハイランダーズ、将校は、「防波堤」の兵士を多角的に描くための視点に過ぎません。

これを踏まえて、ストーリーを考察していきます。

【第一幕】追い込まれた「防波堤」の兵士たち

【第一幕】では、登場人物の【状況・目的】が描かれます。
『ダンケルク』はこのふたつを、【オープニングシーン】ではっきりと観客に提示します。

6人の兵士が市街地を歩いている
・テロップ「敵は 英軍と仏軍を海岸に追い詰めた」
※「敵」=ナチスドイツ、「英軍と仏軍」=連合国
“包囲した 降伏せよ” と書かれたチラシが舞っている=【状況】
・テロップ「ダンケルクで兵士たちは 運命を待った」
ホースから水を飲む兵士※後述します
・テロップ救出に望みを託し」=【目的】

④民家で煙草の吸殻をあさる兵士の向こうで、トミーが用を足そうとしている
・テロップ「奇跡を信じて」

⑤銃撃
→ひとりふたりと撃ち殺されて、トミーだけが生き残る(塹壕へ逃げ込む※後述します

こうしてトミーは命からがら「防波堤」にたどり着きます。

ここから始まる【第一幕】を解説していきます。

【大きな伏線】トミーが逃げ込む “塹壕” と、トミーを追い出す “近衛連隊”

『ダンケルク』の中でも、「防波堤の1週間」は最も台詞の少ないパートです。
しかし、その代わりに最も【伏線・暗喩】の多いパートになっています。

先述したように、「防波堤」の主人公=”兵士たち”は、“個性” ではなく “属性” によって描き分けられています
このことは、冒頭からはっきりと次の【2つのシーン】によって観客に提示されています。
また、この【2つのシーン】トミーの迎える葛藤(トロール船内での犠牲者選び)に繋がる【伏線】にもなっています。

【シーン1
市街地で銃撃に遭ったトミーは、命からがら “塹壕” へ逃げ込む
しかし、相手の兵士と言葉が通じない

つまり、トミーが逃げ込んだのは、“フランス軍の塹壕(防衛線)” だったという描写です。
※このあとトミーは「防波堤」へ辿り着き、口を利かない二等兵・ギブソンと出会いますが、これについては『【アクション】”水を飲む”=生きるための行為』で後述します。

【シーン2
浜辺を埋め尽くす “兵士たち” に茫然としながらも、やむなくトミーも列に並ぶ
しかし、「近衛連隊の列だ」と追い払われてしまう
※参考:近衛兵 (イギリス) – Wikipedia「ウェルシュガーズ」

一見、トミーの “下っ端ぶり” を描写しているだけに見える【2つのシーン】ですが、
次のように見方を変えると【大きな伏線】になっていることがわかります。

【シーン1
→トミーは “フランス兵” に命を救われる
【シーン2
→トミーは イギリス兵” に追い払われる

つまりこの時点で、トミーは“異国の仲間” に救われる体験“同国の仲間” に見捨てられる体験をしています。

このことが、のちのトロール船内での葛藤(ギブソン=フランス兵を見捨てるかどうか)の原因となります。

【アクション】”水を飲む”=生きるための行為

逃げ延びた「防波堤」で、トミー口を利かない二等兵・ギブソンと出会います
このとき、ギブソンある二等兵の遺体を埋めているのですが、そこにはトミーや観客の思う理由とは別の理由が隠されています。(観客の錯覚

“遺体を埋める”
→トミー・観客…死者を弔っている(=埋葬
→ギブソン…死んだイギリス兵から軍服を奪った(=証拠隠滅

よくよく見ると、「埋葬」しているはずのギブソンは、ズボンが履きかけです。
しかし、トミーは気が付きません
(トミー自身も用を足した直後で履きかけなのが、ノーラン監督のトリックのようにも思えます)

トミーがギブソンの違和感に気付かない理由は、ひとつしかありません。
彼の頭は今、 生き残ること” でいっぱいだからです。
※それがなぜかは次の『台詞の少なさの理由』で後述します。

トミーは埋葬を終えてすぐ、「水を分けて」とギブソンにアイコンタクトを送ります。
ギブソンは素直に水筒を渡しますが、靴も履きかけの彼にとって、これは助け合いではなく、打算(自身の状況の誤魔化し)です。

一方、無事に「水」を得られたトミーは、それだけで無条件(無意識)にギブソンを仲間だと思い込みます。
なぜなら「水」は、“生きたい” という本能を端的に表すアイテムだからです。
(先述した【オープニングシーン】でも、ホースから水を飲む兵士の姿が描かれました。一方で、「海」のパートで負傷し、死に至るジョージはピーターからの「水」を断ります

人は「水」なしには生きられません
その「水」を “分け合う” ことは、“助け合って生きる” ことの暗黙の了解になり得ます。

だからこそ、浜辺への爆撃後、トミーギブソンと “ふたりで” 衛生兵を装います
※皮肉なことに、この時もギブソン新たにイギリス兵の装備を重ね着している最中です(爆撃によって死んだ兵士から更に拝借

台詞の少なさの理由|戦場のリアル

戦場において、人はだんだんと「死」に慣らされていきます
隣にいた仲間が次の瞬間には死んでいることが日常であり、これまで多くの戦争映画でその過程が描かれてきました

しかし、本作『ダンケルク』は違います

第二次世界大戦は、1939年9月初めの英独戦争から始まりました。
ダンケルクの戦いは、その約8か月後です。
これが、登場人物たちがすでに「死」に慣れた状況で登場する理由です。

このため【オープニングシーン】でも、トミーは銃殺されていく仲間を一度も振り返りません
ただただ前だけを見て、ひたすら走って逃げ延びます。

兵士同士の会話が少ないのもこれが理由です。
いつ死ぬとも知れない状況下、知り合ったところで仕方がないという諦観が彼らにはあります。
この内に秘められた感情が、スクリーン上の人数に反する沈黙を生み、独特の不気味さ緊迫感を煽ります。
爆撃に対する兵士たちのリアクションも、至って冷静です。
「死ぬのが自分でないこと」を祈るように身を伏せ、攻撃が止めば何事もなかったようにまた列を作ります

しかし、この中にあっても、まだ年若いトミーは全力で「死」に抗います
少しでも早く艦艇に乗りさえすれば助かると、“この時点” では信じているからです。

トミーの悟り①:”弱者” が必ずしも守られるわけではない現実|病院船への爆撃

誤解(上記「埋葬」と「証拠隠滅」)はあるものの、「生き残りたい」という “若くて強い気持ち” は、トミーギブソンも一致しています。

諦められない二人は、病院船から降ろされた後も機会を待つため、列には並ばず、桟橋の下に身を潜めます
(そして将校たちの会話を耳にします。浜辺では40万人もの兵士が艦艇を待っているにも関わらず、チャーチル首相は3万人、ラムゼー提督は4万5千人しか救出を想定していません。しかも、イギリス兵限定です)

そこへ再び敵機(爆撃機・スツーカ3機)が襲来
乗船しようとしていた病院船が目の前で、赤十字のマークも虚しく海に沈みます
(そして桟橋は使えなくなる)

このシーンは、単にトミーとギブソンの失敗を描いただけではありません
沈没したのが “病院船” だったことに意味があります。

トミーとギブソンには、どんな手を使ってでも「生きて帰る」という強い欲求があります。
そのためにトミーは “衛生兵のふり” をし、ギブソンは “イギリス兵のふり” をしています。

しかし、本物の怪我人、医者、看護師…… “道徳的に命が優先されるべき人々 ≒ 弱者” を乗せたまま、病院船は沈没する。

ここには、“弱者” にさえも容赦のない、道徳の通用しない戦場の現実が描かれています。
つまり、“弱者のふりでは「生きて帰れない」

この現実を受けて、トミーとギブソンは次の行動へ移ります。

【第二幕】強烈な皮肉|必死でもがいた兵士たちと、ただ待ち続けた兵士たち

病院船が撃沈した際、桟橋の下に身を潜めていたトミーは、危うく船と桟橋の間に挟まれかけていたアレックスを救います

先述したように、アレックスはハイランダーズ(高地連隊)と呼ばれる、いわば精鋭です。
勇猛で知られる “ハイランド人(スコットランド人)” を体現するような誇り高い人物設定となっています。
※これが明らかになるのは、ラスト間際のアレックスの人物描写。

【アレックスの状況】
ボルトン海軍中佐「ハイランダーズは別の船に乗れ

つまり、アレックスは病院船に乗っていた
=ハイランダーズは怪我人と同等に救出を優先された部隊だった
※優先度を図にすると、「怪我人=ハイランダーズ>近衛連隊>二等兵>…>フランス兵

【第一幕】で “弱者のふり” では救われないことを悟ったトミーとギブソンは、ここで “強者のふり”=ハイランダーズに紛れ込むことを思い付きます。

トミーの悟り②:”強者” さえ救われない絶望的な現実|艦艇の撃沈

ハイランダーズに紛れ、トミーとギブソンはついに艦艇乗船に成功します。
(出航した船内では歓声が上がる一方、浜からボートで追いすがる兵士たちは「戻ってくれ! 行かないでくれ!」と悲痛な声を投げかける)
(病院船沈没を目撃したギブソンは、トミーらが船室に入る中、恐怖心からひとり甲板に残る)

しかし、直後に魚雷が命中
“強者のふり” に託した望みは、呆気なく打ち砕かれます

そして続くシーンは、とどめのような【皮肉】です。

危うく艦艇ごと沈みかけたトミーたちは、間一髪、ギブソンによって救出されます。
しかし、待ち受けているのは、艦艇に乗れなかった “ボートの兵士” です。

さっきまで必死で艦艇を追っていた彼らは一変、トミーたちに次のようなセリフを投げます。

ボートの兵士「焦るな。次を待て。海は荒れてない。水温も普通だ。そのまま浮いて待て。必ず戻る
※この兵士が、のちの時系列でミスタードーソンに拾われる謎のイギリス兵(参照:海上で救う兵士①謎のイギリス兵=ダンケルクからの避難兵

艦艇の沈没によって、”乗れた兵士” と “乗れなかった兵士” の立場は逆転、
“乗れなかった兵士” たちは、まるで艦艇にでも乗っているようなセリフを吐き
“乗れた兵士” だったはずのトミーたちは、浜どころか闇夜の海に取り残されてしまいます

「防波堤」の【分岐点】|”満ち潮” は【クライマックス】へのカウントダウン

翌朝、満ち潮にも気付かないまま、トミーたちは波打ち際で眠っています。
彼らのように “眠る兵士たち” もいれば、
波にボードで立ち向かう “諦めない兵士たち”
静かに入水する “諦めた兵士たち”さまざまな兵士が描かれます

そして、この満ち潮を契機に【兵士たちの分岐①②】が起き、再びストーリーは動き出します
また、この満ち潮ストーリーを盛り上げるカウントダウン(トミーたちの沖への脱出、「海」の民間船の到着)の役割も担っています。

【分岐】によって演出される危機|陸軍と海軍のギャップ・トミーの葛藤

ハイランダーズが座礁船=トロール船を発見。トミーとギブソンも、アレックスらに追従します。
ここに挟まれるのが、【別視点】ボルトン海軍中佐とウィナント陸軍大佐の会話シーンです。

陸軍「工兵隊が桟橋を作ってる。潮が満ちれば使える
海軍「6時間後だな
陸軍「3時間後では?
海軍「私が海軍でよかったな
※便宜上、陸軍・海軍と表記しています。

つまり、陸軍満潮を読み違えいます
アレックスらハイランダーズも、トミーら二等兵も、陸軍という括りでは同じです。
そのため彼らも同様に満潮を読み違え、結果、勝手に焦り(ストレス)を募らせます

その焦りに拍車をかけるのが、

足音が迫る(=船の持ち主・オランダ商船隊)
銃弾が撃ち込まれる(=敵の試し撃ち)
③口を利かないギブソンへのスパイ容疑(=フランス兵の正体露見

状況はみるみる悪化していき、オランダ商船隊の「軽くなれば船は浮く」という一言で、誰かを降ろさなければと兵士たちはパニック状態に陥ります。

そして、当然のようにフランス兵・ギブソンに白羽の矢が立てられます。
ここで、先述したトミーの葛藤答えが出されます

アレックス「誰かが下りればみんなが助かる
トミー「嫌だ。国へ帰る」
アレックス「(そのために)犠牲が必要だとしたら」
トミー「仕方ないけど、間違ってるよ」

戦争には必ず犠牲が伴います。
当たり前のことですが、犠牲者が他人であるうちは、自分は生きていられます

隣の誰かが代わりに撃たれた
誰かが艦艇に乗れない代わりに乗れた

この戦争の現実を、冒頭から体現してきたのがギブソンです。
犠牲になったイギリス兵がいたからこそ、“イギリス兵のふり” でここまで生きていられました

アレックス「次はお前だ。俺たちは同じ隊だが、お前は違う

とうとうトミー自身に “犠牲” が迫ったところで、海は満潮(カウントダウン0)を迎え、トロール船の船体が浮き上がります

【分岐】によって演出される緊張と緩和|【クライマックス】で時制一致

満潮によって浮き上がったトロール船でしたが、直後に激しい銃撃音が響きます。
(これによって船底は穴だらけとなり、トロール船は浸水しながら沖へ出ることになります)

そして「空」と「海」の交わる【クライマックス①:コリンズ水没危機】に続けて、
「防波堤」のボルトン海軍中佐の【別視点】のシーンが描かれます。

ボルトン海軍中佐は双眼鏡で、浜辺で銃撃に遭っているトロール船(トミーたちが乗っている)を目視敵の侵攻の気配作品の緊張感はいよいよ高まります
(銃撃と浸水と戦うトロール船内のカットも挟まれる)

そして再び、厳しい目で艦艇を見送るボルトン海軍中佐のカット。
海に “何か” を見つけ、にわかには信じられずに呆然とします。

ウィナント陸軍大佐「何が見える」
ボルトン海軍中佐「……故国だ」

そしてダイナモ作戦の見せ場押し寄せる民間船のシーンここまでの緊張が一気に緩和を迎えます。
注)「海」の父親のカットも絶妙に挟まれますが、父親の船は「防波堤」でなく、トロール船近くの沖にあります。

しかし、この緩和は「防波堤」に残った兵士たちのもので、【分岐】したトロール船の兵士たち「空」と「海」未だに緊張の中にあります。

【クライマックス②:緊張】
「トロール船」…船底の穴を手で塞ぐ→船からの脱出
・トミー、ギブソン、アレックス他
「海」…艦艇への爆撃→投げ出される兵士たちを目撃
・ミスタードーソン、ピーター、コリンズ
「空」…敵機:ハインケルを追う
・ファリア

トロール船内の兵士たちは船を捨てることを決意
この時ばかりはアレックスもギブソンに「逃げろ!」と声を掛けますが、不運にもギブソンは間に合わず、トロール船と共に沈没してしまいます。
“イギリス兵のふり” を暴かれた途端に死んでしまった、と解釈すると、犠牲の上に成り立つ生の危うさがわかります)

【クライマックス②:緩和】
「トロール船」…重油(爆発)を逃れ、「海」の民間船へ
・トミー、アレックス他→艦艇の「防波堤」の兵士たち【合流】
「海」…重油の中からの兵士たちを救出
・ミスタードーソン、ピーター、コリンズ
「空」…敵機:ハインケルの撃墜
・ファリア

ここで、トロール船から脱出した兵士たち(トミーたち)艦艇の兵士たち
つまり、【分岐】していた「防波堤」の兵士たちが再び【合流】します。
(ダイナモ作戦=「海」の民間船に救われた、という意味では「防波堤」全員のストーリーが一致する。これが、私が “「防波堤」における主人公「兵士」という大きな単位” と考える理由です)

「空」のファリアが敵機を追い、「海」の父親たち「防波堤」の兵士たちの救出を急ぐ。
そして、ついにファリアが敵を撃墜しますが、それによって重油に引火「防波堤」の兵士たちの一部は炎に飲まれてしまいます

ノーラン監督のテクニック|トミーか、それともアレックスか

一連の救出シーンでノーラン監督の用いたテクニックが面白いので、ご紹介します。

【シーン①】
「海」のピーターの手を、間一髪で掴んだ兵士
カメラは顔を映さない
【シーン②】
息が持たずに水面に顔を出し、炎に飲まれる兵士
誰かはわからない

結論から述べると、
【シーン①】の兵士はアレックスであり、【シーン②】の兵士はダミーの兵士です。
(顔を映さないのは、トミーかアレックスかと観客の不安を煽るための演出

ピーターによって引き上げられたアレックスは、船内でひと足先に救出されたトミーと再会します。
(【シーン①】がアレックスなら、【シーン②】でトミーは死んだと思わせるミスリードの演出も兼ねています)

時制一致後も巧みに重なる【クライマックス】

「海」の民間船にボルトン海軍中佐が感謝する中、ダンケルクの浜辺からは「防波堤」の兵士たちが次々に船へ乗り込んでいきます。
そんな彼らの上を、滑空状態(=燃料0)のスピットファイア(=ファリアが過ぎますが、
【ダンケルク到着 “描かれなかった活躍”】で先述したように、陸軍には空軍に失望しているという設定(史実)があります。
このため、列を作る兵士たちはスピットファイアに見向きもせずボルトン海軍中佐だけが目を留めます

そして、再びここで「防波堤」、「海」、「空」の【クライマックス:緊張】が重なります。

【クライマックス:緊張】
「防波堤」…爆撃機・スツーカが襲来
・ボルトン海軍中佐他
「海」…戦闘機・メッサーシュミットが襲来
・ミスタードーソン、ピーター、コリンズ、トミー、アレックス他
※「爆撃機」と「戦闘機」の違いについては 再び敵機 → “Bomber” に込められた “暗喩” を参照
※↑の本作における意味については 【クライマックス】”メッサーシュミットと父親の対決” が意味するもの を参照

「空」…爆撃機・スツーカを発見(「防波堤」と同機
・ファリア

ボルトン海軍中佐は祈るように目を伏せ、ミスタードーソンはピーターに舵を握らせます。
ファリアの詳細は【ダンケルク到着 “描かれなかった活躍”】参照

そして、ボルトン海軍中佐が爆撃音に目を開いた時、次の【クライマックス:緩和】が描かれます。

【クライマックス:緩和】
「防波堤」…爆撃機・スツーカがスピットファイアによって撃墜される
・ボルトン海軍中佐他
「海」…戦闘機・メッサーシュミットをかわす
・ミスタードーソン、ピーター、コリンズ、トミー、アレックス他
「空」…爆撃機・スツーカを撃墜(「防波堤」と同機
・ファリア

こうしてダンケルクの「防波堤」の兵士たちムーンストーン号の「防波堤」の兵士たち、両者は「海」と「空」の力を借りて、ついにダンケルクを脱出します。

アレックスの人物描写|ハイランダーズという【バックストーリー】

トロール船内でもアレックスの人物像は匂わされていましたが、救出後のムーンストーン号船内ではセリフによってはっきりと描写されます。

トミー「(見える陸地は)ドーバーか?」
ピーター「いいえ、ドーセットです。でも故郷だ
(ピーターとトミーが帰還の喜びを分かち合う中)
アレックス「国民はがっかりだろうな(字幕:皆を失望させた)」

ようやくの帰還に安堵するトミーとは対照的に、アレックスは消沈しています。
これは、アレックスがハイランダーズという設定のキャラクターだからです。

はじめに『主な登場人物』で先述したように、アレックスは勇猛さで知られるスコットランド人(ハイランド人)です。
そんな彼にとって “何が大事か” が次の【第三幕】で結末と合わせて描かれます。

【第三幕】描かれたのは “成功” ではなく “犠牲”

ダイナモ作戦によって、「防波堤」の兵士たちはついに故国・イギリスの港へ帰還します。

誤解によって描かれる “アレックスの心境”

港では、直接迎えには行けなかった老人たちが中心となって、兵士たちに紅茶や毛布を配っています。
それらを受け取りながらトミーは列車へと向かっていきますが、一方、アレックスは俯きがちです。

毛布を配る老人「みんなよくやった。ご苦労だった」
アレックス「生きて帰っただけだ」
毛布を配る老人「十分だ」
(その後、老人がトミーの顔に触れる描写で観客には盲人だとわかるが、先を歩いているアレックスは気が付かない

↓(列車に乗り込み)

アレックス「顔も見ずに毛布を(吹替:毛布くれた奴、目も合わせなかった)」
(アレックスは思わず向かいのトミーに愚痴をこぼすが、トミーは疲れ果ててすでに眠っている
※トミーが眠るのに合わせて、ようやく時計の針の音が止む

先述したように、ハイランダーズであるアレックスには、二等兵・トミーにはないプライドがあります

「空」のファリアにとってのプライドは、地上の仲間を守ることでした。
(だから鹵獲を防ぎ、敵の捕虜となっても恥じてはいない)

「海」のミスタードーソンにとってのプライドは、一人でも多くの兵士を連れ帰ることでした。
(長男やジョージの犠牲を受け止める代わりに、メッサーシュミットと対峙して兵士たちを守る)

「防波堤」のトミーは、プライドを捨てた結果生きて帰る結末にたどり着きました。
(衛生兵のふりをしたり、ハイランダーズに紛れ込んだりとなりふり構わず奔走した結果の帰還)

しかし、同じ「防波堤」の兵士でも、アレックスはトミーとは違います
ハイランダーズであることを誇りに、ここまで常に勇敢に行動してきました。
(ex.トロール船内…良くも悪くもギブソンを “犠牲者” に指名し、彼の次にはトミーを指名し、あくまで仲間・ハイランダーズを守ろうとする)

そんなアレックスにとって、撤退による帰還は当然、誇れる結末ではありません
(このため、老人が顔を見なかった理由自分にあると思い込む

ボルトン海軍中佐の人物描写|最後の二等兵・ダイナモ作戦の経過

(使用写真:WarnerBros.com | Dunkirk | Movies

明け方、ダンケルクの浜辺で最後の二等兵が目を覚まします
※背後に映り込む浜辺の黒煙は、ファリアが燃やしたスピットファイア
※この最後の二等兵の正体を、私は“観客” だと想定しています。

↑『最後の “二等兵”の正体「ダンケルクの目撃者』を参照

誰もいない静寂の中、二等兵はボルトン海軍中佐の声にはっと振り返ります

ボルトン海軍中佐「そこの二等兵! 将校と一緒の船だが、今乗らなきゃ敵の餌食だぞ! 階級うんぬん言ってる場合じゃない

こうして最後の一人まで「防波堤」の兵士は船に乗り込みますが、

ボルトン海軍中佐「私は残るフランスのために
ウィナント陸軍大佐は敬礼で去っていく

一見、「ここ残っても……」と思えてしまうシーンですが、
【ダイナモ作戦の経過】を知ってみると、“最後の二等兵=観客” と同様に、“ボルトン海軍中佐=“イギリス海軍への敬意・誇り” を表すためのキャラクターでもあったことがわかります。

【ダイナモ作戦の経過】
5月26日…7千人救出
5月27日…数千人救出(ベルギーが降伏)
5月28日…(連合軍がフランス拠点を放棄・約50万人の兵士がダンケルクに殺到
5月29日…約5万人のイギリス兵が救出=「防波堤」の1日目
・夕方にドイツ空軍による最初の空爆(ダンケルク港の水門破壊小型船しか近づけなくなる
5月30日…約5万人が救出(フランス兵も救出開始
5月31日…約7万人が救出
6月 1日…約6万人が救出
6月 2日…約6万人が救出
6月 3日…約3万人のフランス兵が作戦終了前に回収される
6月 4日…(ドイツ軍はダンケルクを完全占領を宣言)
・BBCはこの日の朝、イギリス陸軍将校が最後の船の出発前に乗り遅れがないかを確認したことを報道。
(参考:ダイナモ作戦 – Wikipedia

ダイナモ作戦では、1940年5月26日から6月4日(9日間)のあいだに、約33万人もの兵士たちがダンケルクから救出されました。
このうちイギリス軍は約19万人フランス軍は約14万人

最後の二等兵を船に乗せ、自分は桟橋に留まったボルトン海軍中佐の「フランスのために」というセリフは、
このダイナモ作戦に最後まで力を尽くした将校たちの実像を思わせるシーンとなっています。

また、ノーラン監督もインタビューで次のように答えています。

【Kenneth Branagh’s Commander Bolton is a composite character】
【ケネス・ブラナー演じるボルトン海軍中佐は合成キャラクター】
There are real high-ranking military officers mentioned in Dunkirk, including Admiral Sir Bertram Ramsay, who was in charge of the evacuation.
ダンケルクには、ラムゼー提督(脱出作戦の責任者・海軍)をはじめ、実在の高官が何人も存在しています。
But Cmdr. Bolton (portrayed by Kenneth Branagh), who gives the most information about the battle during the movie, is a composite character.
しかし、ボルトン海軍中佐(演:ケネス・ブラナー。作中で最も戦況を伝えるキャラクター)は、(実在の高官たちを)合成したキャラクターです。
Bolton’s duties in the film include the role of pier master, who oversees boarding soldiers onto water vessels.
ボルトン海軍中佐は作中、兵士たちを艦艇に乗船させる役割を担っています。
During the true battle, that task was handled by James Campbell Clouston.
史実では、ジェームズ・キャンベル・クルーストンが担当した任務でした。
(引用:‘Dunkirk’: How historically accurate is Christopher Nolan’s WWII film? (usatoday.com)

チャーチルの演説①|アレックスの復活

翌朝、トミーとアレックスが目覚めた時、列車はのどかな景色の中を走っていました。
ウォーキングという駅に差し掛かったところで、アレックスは外にいた子供から朝刊を受け取ります

新聞の見出し〈33万5千人救出。首相、ダンケルクについて下院で演説〉
(その先をとても読めずに)
アレックス「耐えられない。お前(トミー)が読め。唾を吐きかけられるぞ。通りに群衆がいれば

「救出」されたことと捉えているアレックスは、国民に責められると思い込んでいます。
更には、自分たちが撤退したためにイギリス本土が戦火に呑まれることを危惧して、皮肉すら口にします。
(この新聞のシーンを引き継ぐように、新聞社を訪ねる「海」のピーターのシーンが挟まれる)

不貞腐れるアレックスを前に、トミーは渋々新聞を読み上げます。
このとき、トミーが朗読するのはウィンストン・チャーチルの有名な演説です。
この演説に合わせてアレックスとトミーの心理変化が効果的に描かれるので、長くなりますが下記に列挙します。

トミー「〈戦争で撤退による勝利はない〉」
(駅に到着し、アレックスは顔を隠すように俯く撤退は敗北だから

↓駅のホームから列車の窓を叩く男性に、アレックスは「見たくない」と頑なに顔を伏せる

トミー「〈だが、この救出劇はひとつの勝利だ〉」
「勝利」という言葉に反応するようにアレックスは顔を上げる

男性からビールを手渡され、アレックスは窓の外へ身を乗り出す

〈奇跡的な救出の成功に感謝すると同時に、フランスとベルギーでの軍事的失敗から決して目を背けてはならない。〉
次なる戦いの嵐がすぐそこに迫っている
我々は戦い続ける。フランスで。そして、大海原で。更なる自信と力を持って空で戦う〉

↓(シーンが列車に戻る)

トミー「いかなる犠牲を払おうとも……
アレックス「何?出迎えに応えるのに忙しく歓声で聞こえない)」
トミー「〈いかなる犠牲を払おうとも、国を守る〉」

〈海岸で戦い、上陸地で戦い、野原で戦い、街で戦い、丘で戦う。決して屈しない。〉
たとえこの島が征服され、飢え苦しむことになろうとも〉
海を越えて広がる大英帝国は、英国艦隊のもと戦い続ける

歓声に応え、飲んで食べるアレックス

トミー「〈やがて時が来れば、新世界の大いなる力が古き世界を救い、解き放つだろう〉」

そして、ここでトミーは新聞から目を上げますが、アレックスはとっくに演説なんて聞いていません

この救出劇はひとつの勝利
いかなる犠牲を払おうとも、国を守る
決して屈しない

これらの言葉に鼓舞されるように、アレックスは出迎える民衆に対してまるで英雄の帰還のように手を振ります

チャーチルの演説②|トミーの絶望=【ラストシーン】

アレックスが立ち直る一方、帰還を喜んでいたはずのトミーは徐々に暗い顔つきになっていきます。
なぜなら、チャーチルの言葉は戦争ムードを盛り上げるものだからです。
だからこそ誇り高いアレックスは立ち直る

次なる戦いの嵐がすぐそこに迫っている
我々は戦い続ける
いかなる犠牲を払おうとも、国を守る
決して屈しない

「防波堤」で、トミーは戦争の不条理を嫌というほど見てきました。
戦場には弱者も強者もなく、ただ不運な誰かが犠牲になっていく現実があります。

戦争による犠牲を「仕方ないけど、間違ってる」と結論付けたトミーにとっては、
チャーチルの〈いかなる犠牲を払おうとも、国を守る〉という言葉は間違いでしかありません。

きっとまた戦地(あそこ)へ行かされる。
次はきっと、生きて帰れない。

新聞から目を上げるトミーのシーンはほんの数秒ですが、
英雄扱いに浮かれるアレックスとの対比によって、
戦争への不安、嫌悪を観客に伝える、力強い【ラストシーン】となっています。

もうひとつの犠牲|背景に映り込む激戦地・カレーの黒煙

(使用写真:Dunkirk in 4k (2017) – Evan E. Richards (evanerichards.com)

史実において、カレーは激戦地として知られます。
(画像左端が「Calais:カレー」、その右隣に「Dunkirk:ダンケルク」の浜辺があるのがわかります)

イギリス空軍の活躍と、砂浜がクッションとなって爆弾の威力が減衰したことなどもあり、連合軍のほとんどは海からの脱出に成功した。なおこのとき、カレーで包囲されていたイギリス軍部隊はドイツ軍を引きつけておくために救出はされなかったこの部隊の犠牲もダイナモ作戦の成功の一因であった。(引用:ダンケルクの戦い – Wikipedia

上記にあるように、ダンケルクの兵士の生還は、カレーの兵士の犠牲の上に成り立っています。
これこそがチャーチル首相の〈いかなる犠牲を払おうとも〉であり、
トミーの「仕方ないけど、間違ってる」というメッセージの正体です。

作中、カレーについては「空」の冒頭で軽く触れられるのみで、あとは遠くで立ち昇る黒煙から察する他にありません。
しかし、 ノーラン監督の “狙い” ← “日本人” には伝わりにくい で先述したように、このことはイギリス人にとっては常識ともいえる前提知識の1つです。

あえてカレーについて言及しなくとも、観客は『ダンケルク』で語られる “犠牲のストーリー” からカレーを想起する
本作には、そんなノーラン監督の狙いが隠されているのかもしれません。

長くなりましたが、以上で『ダンケルク』の 「防波堤」の解説を終わります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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参考サイト一覧

映画『ダンケルク』ブルーレイ&DVDリリース (warnerbros.co.jp)
ダンケルク (2017年の映画) – Wikipedia
ダンケルク : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)