今回は1997年公開、ジェームズ・キャメロン監督作品『タイタニック』について解説・考察していきます。
【公開から25年】色褪せない名作
2023年に3Dリマスター版が公開されたタイタニックですが、実はこれが4回目の上映になります。
↓2年後
1997年12月19日…公開(世界初動興行収入18億ドル超 ※映画界初の10億ドル超)
↓15年後
2012年4月4日…「3D版」再公開(沈没100周年記念・世界累計興行収入21億ドル超)
↓5年後
2017年…再公開(20周年記念・アメリカ国立フィルム登録簿に保存決定)
↓6年後
2023年2月10日…「ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター版」が日米同日公開
(参考:タイタニック (1997年の映画) – Wikipedia)
あらすじ
1912年4月10日、イギリスの豪華客船タイタニック号が、ニューヨークに向けて処女航海に出発する。出港直前に乗船券を手にした画家志望の青年ジャックは、新天地アメリカを夢見てタイタニック号に乗船、そこで上流階級の令嬢ローズと出会う。2人は身分違いの恋に落ち、強い絆で結ばれていく。しかし出発から4日目の深夜、タイタニック号は巨大な氷河に激突してしまう。
2023年の「3Dリマスター版」は、1995年の「オリジナル版」をジェームズ・キャメロン監督の手によって、より美しく一新された最新版です。(2週間限定公開)
作品背景|上流階級と労働者の格差社会
映画『タイタニック』の作品舞台は1912年。
ヨーロッパを中心に、アメリカへ前例のない “移民の波” が押し寄せていた時代です。
移民が低コストの労働力となってアメリカの工業を発展させた一方で、
ネイティブアメリカンの迫害※も起きていました。
※映画『シャイニング』の「オーバルックホテル(設定:インディアン墓地に1907年着工)」も、この時代が背景にあります。
(参照:【映画考察】『シャイニング』の演出|一貫した「ネイティブアメリカン」の暗喩・「熊の着ぐるみ」の正体 )
この格差社会の構図を、『タイタニック』は『船上のロミオとジュリエット』とも称されるラブストーリーの舞台に巧みに組み込んでいます。
(ex.上のデッキへ行くほど豪華な客室、最下層にボイラー室=労働の場)
人気の理由|対照的な2人のたった1つの共通点
『タイタニック』の主人公・ローズ(ケイト・ウィンスレット)と、運命の相手・ジャック(レオナルド・ディカプリオ)の人物設定は、これ以上ないほどシンプルです。
①身分…金持ち(上流階級の令嬢)
②登場時の状況…不自由(籠の鳥)
③趣味…絵画鑑賞
①身分…貧乏(根無し草)
②登場時の状況…自由
③夢…絵描きになること
①②のように正反対のふたりが、③の共通要素で結びつくシンプルなラブストーリーですが、
ここに “タイタニック号沈没” というパニック要素が加わることで、単なる『ロミオとジュリエット』では終わらない、エンターテインメント性も兼ね備えています。
ここに男女問わず楽しめる『タイタニック』の理由があります。
ストーリープロット|作品構成
『タイタニック』で起きることをまとめると、以下のようになります。
・沈没したタイタニック号からローズの絵が発見される
↓回想(84年前)
【第一幕】
・タイタニック号、出航(4月10日 処女航海)
・ローズとジャックが出会う
【第二幕】
・ローズとジャックが結ばれる(4月14日)
・タイタニック号、氷山衝突(PM11:40)
【第三幕】
・タイタニック号、沈没(AM2:20)
・ジャックと死別
↓回想から戻って
【エピローグ】
・ローズは碧洋のハートを海へ隠す
ここからはプロットごとに【ネタバレあり】で解説していきます。
【プロローグ】沈没船タイタニック号から豪華客船タイタニック号へ
1912年4月10日。
タイタニック号の出航当時の白黒写真から本編は始まり、シーンは沈没したタイタニック号の調査船へと移ります。
そして「ローズの絵」が見つかり、ニュースで報道。
これをたまたま目にした101歳のローズは、孫娘と共に調査団のもとへと向かいます。
【冒頭】ローズの登場シーンに隠された “オマージュ”
ローズの【登場シーン】は実に穏やかです。
明るくカラフルなインテリア、花の咲く長閑な家。
その一画のサンルームでローズは陶芸をしています。
なぜ、陶芸なのでしょう。
本作を一度観た方であれば、ローズの趣味は絵画鑑賞であることはご存知かと思います。
穏やかな余生を表現するだけなら、ローズは絵画を眺めていてもよかったし、絵を描いていてもよかったわけです。
にもかかわらず、
ジェームズ・キャメロン監督は “ローズに陶芸をさせた”。
私はこれを、映画『ゴースト ニューヨークの幻』のオマージュだと考えています。
暴漢に殺された男性が幽霊となって恋人を守る姿を描き、世界的大ヒットを記録したロマンティックファンタジー。銀行員のサムと恋人の陶芸家モリーは、ニューヨークで一緒に暮らし始める。しかしモリーがサムにプロポーズした夜、2人は暴漢に襲われ、サムは命を落としてしまう。ゴーストとなって現世に残ったサムは、モリーを傍で見守り続ける。
(画像・文章引用:ゴースト ニューヨークの幻 : 作品情報 – 映画.com (eiga.com))
映画『ゴースト ニューヨークの幻』には有名なラブシーンがあります。
それが “陶芸シーン” です。
作品序盤、手に手に重ねて “1つの器を2人で” 作っていたサムとモリーのシーンは、そのままラブシーンへ展開。
そしてサムの死後には、一人ろくろを回しながら “死んだ恋人を想うモリーの姿” と、そんな “モリーを見守るゴースト・サムの姿” が描かれます。
ジェームズ・キャメロン監督は、このシーンをさりげないオマージュとして忍ばせることで、
84年を経てもなお、ローズの心は “死んだ恋人=ジャック” と共にあり、ジャックもローズを見守っていることを暗喩しようとしたのではないでしょうか。
【第一幕】ふたりの出会いと「碧洋のハート」
調査団の面々に、ローズは84年前のタイタニック号での出来事を語り始めます。
ローズが母親と婚約者・キャルと共に嫌々乗船するのに対し、
ジャックは幸運にもポーカーで勝利して、意気揚々と友人と共に乗り込みます。
そして二人は運命の出会いを果たしますが、
実はここには演出上、重要なタイムラグがあります。
ジャックの出会いは「船首」|格差を見せる出会い方
ジャックの【初めての出会い】は、乗船して早々、“船首” で起こります。
タイタニック号船内は、
(階下には食事会場や図書室)
↓
二等船室
↓
三等船室
↓
ボイラー室(最下層が労働者)
格差がひと目でわかる構造です。
ジャックはこの三等デッキから一等デッキを見上げ、偶然、ローズを目にします。
一方、ジャックと目が合ったものの、ローズはこの日の事を覚えていません。
(氷山衝突後、「this is where we first met(初めて出会った場所よ)」と “船尾で” ローズは口にする)
このことは、“一等船室の人間” にとっての “三等船室の人間” がいかに取るに足らない相手であるかを表しています。
ローズの出会いは「船尾」|自殺未遂を巧みに使った説明
ローズの【初めての出会い】は、乗船から数日後、“船尾” で起こります。
真っ赤なドレスを着たローズが船内を駆け抜けるシーンから唐突に始まりますが、
84歳のローズのナレーションから、“何か窮屈な出来事” から逃げ出してきたことは十分推測できます。
(このような大胆な割愛が『タイタニック(194分)』のテンポの良さの理由です)
しかし、ここは大西洋の上。
船尾で行き止まったローズは、衝動的に手すりを乗り越えます。
一方、ローズをすでに見知っているジャックは見過ごせずに彼女の説得へ向かいます。
この時のジャックの台詞には以下の情報が含まれます。
・水も冷たい(ナイフで全身を突き刺すような痛み)
船から海までどれだけの高さか、どんなに冷たいか。
つまりは落ちたらどうなるかを、監督は “ローズの自殺未遂” を通して観客にすり込みます。
このさりげない説明があるからこそ、
【第二幕】から始まる沈没への恐怖、逃げ場のない絶望感がリアリティをもって成立します。
婚約者・キャルの愛情表現|碧洋のハート
ローズを救ったジャックに対し、婚約者・キャルは執事に20ドルを渡すよう命じます。
これを聞いたローズは「愛する女性の命の値段が20ドル?」とキャルを咎めます。
その結果、ジャックは夕食会へ招かれることになります。※【第二幕】で後述します。
戻った船室で、キャルはローズに「碧洋のハート」を手渡します。
これは本来、後日に控えている婚約式で渡すはずだったプレゼントです。
【第二幕】で明らかになりますが、この婚約の背景にはローズの家の困窮があります。
このためローズはキャルを愛しておらず、それを指摘したジャックに「You don’t know me, and I don’t know you(何も知らないくせに)」と反発します。
当然、キャルもこの背景を承知しています。
にもかかわらず、つれないローズを度々なだめ、作中、常にローズの母親をエスコートします。
キャルは、お金目当てとわかった上で、ローズを愛している。
ここに彼の “歪んだ愛” の原因があります。
お金を持っているから、ローズは自分と結婚する。
=お金でローズの心は繋ぎ留められる。
「碧洋のハート」のモデルは、ホープダイヤモンドと言われています。
その価格は推定2~2.5億ドル(220~280億円)。
この価格はそのまま、キャルの思う最大限の “ローズの命の価格” であり、「20ドル?」と咎めたローズへの回答になっています。
キャルにとって「碧洋のハート」はローズへの本気の愛情表現です。
一方で、“お金” は所有欲・独占欲も表します。
“買った心” の反抗を決してキャルは許しません。
“無一文のジャック” に恋するローズの心を、キャルには到底理解できません。
一見、”クズ男” のキャルにもきちんと裏付けがあるところが、『タイタニック』の盤石なところです。
【第二幕】結ばれるふたり|タイタニック号氷山衝突
ふたりの恋は、ジャックのひと目惚れから始まりますが、
一等船客の夕食会、三等船客のダンスパーティーを経て、
ローズも次第にジャックに惹かれていきます。
ローズの葛藤|愛かお金か
先述したように、ローズは “家の困窮” という問題を抱えています。
キャルとの結婚以外、ローズに問題解決の道はありません。
つまり、ローズはお金に拘束されている状態です。
(この状況を暗喩するのが「コルセット」。ローズの母親みずから娘を “締め付け” ます)
そんなローズを葛藤させるのがジャックの告白です。
ジャックにはお金がない代わり、愛があります。
直訳:君が飛ぶなら僕も飛ぶ。(そう言ったのを)覚えてるよね?
(つまりジャックは、“命を懸けてもいいほど愛している” と伝えている)
※「You jump, I jump」はローズの自殺未遂を止めた言葉
お金か、愛か。
葛藤するローズに、ジャックはさらに言い募ります。
直訳:彼ら(婚約者や母親)は君を閉じ込めるだろう。そして、いずれ君は死んでしまう。自由を求めない限りね。
意訳:あなたにどうこうできることじゃないわ。
□ up to you =~次第
意訳:その通りだよ。解決できるのは君だけだ。
つまり、
・愛(ジャック)を選んで貧しくても自由に暮らすか
【プロローグの伏線回収】ローズの蝶の髪飾りの暗喩
冒頭、調査団のもとへ到着した84年後のローズは、
回収された遺品の中から「蝶の髪飾り」を手にします。
思わず手に取るほど大切なのは、
この「蝶の髪飾り」をローズが “愛” を選んだその日に身に付けていたものだからです。
物語において「蝶」は、“変身” を暗喩する定番アイテムです。
家のためのキャルとの婚約、その先に待ち受ける窮屈な暮らしへ向かっていたローズが、
ジャックに出会い、恋をしたことで、本当の望み=自由を求めるようになる。
(画像:『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』全国各地で完売続出の大ヒットスタート‼︎色あせない感動の物語に“タイタニック泣き”の声、続出! (20thcenturystudios.jp))
ローズの “変身” を明確に、ドラマチックに演出する素晴らしいシーンとなっています。
しかし、この夕日がタイタニック号の最後の夕日となり、
物語は氷山衝突事故へと舵を切ります。
タイタニック号、氷山衝突|ローズの意思決定
4月14日 23時40分。
北大西洋沖でタイタニック号は氷山に衝突します。
ここから物語のカウントダウン(沈没まで1~2時間)が始まります。
しかし、ここから起きる【障害】を解決するのは、ジャックではなくローズです。
①手錠…ジャックの窃盗容疑・ローズの決断
ローズは衝突事故を知らせに一等船室へ向かいますが、
キャルとその執事の企みによって、ジャックに「碧洋のハート」の窃盗容疑がかけられます。
(このときジャックは “ローズに会うために” 盗んだコートを着ていたため、弁明できない状況)
ジャックは手錠をはめられ、船底の一室に監禁されてしまいます。
一方ローズは、母親とキャルと共に救難ボートへ向かいますが、ここで彼らとの溝が決定的になります。
直訳:救命ボートも等級別かしら。混んでないといいのだけど。
キャル「Not the better half.(字幕:貧乏人がね)」
直訳:良くない方の半分だ。
意訳:僕たちじゃない
(↑自分たちが「better half(優先されるべき半分)」という認識)
危機に際しても価値観を改めないの二人に見切りをつけて、
ローズはジャックのもとへ向かいます。
タイタニック号の設計主任・アンドリュースにジャックの居場所を尋ね、
エレベーターボーイを怒鳴り付け、
行き合う人に助けを求め(ことごとく断られる)、
最後には斧(自力)でジャックの手錠を断ち切ります。
②シャッター…三等船室の閉鎖
救命ボートへの乗船は、一等船客(女性と子供)が優先です。
更なるパニックを抑えるため、三等船室はシャッターで封鎖されてしまいます。
このシャッターを、ローズとジャックは友人の力を借りて強行突破、ようやくデッキへと出ます。
そしてローズはついに救命ボートへ移りますが、やはり離れられずにジャックのもとへ舞い戻ります。※【第三幕】で後述します。
(このとき、キャムがコートを着せかけたことで「碧洋のハート」がローズに渡る)
↑ジャックが2度(自殺未遂と”籠の鳥” からの開放)にわたってローズを救った台詞
大人の目を盗む “危なっかしい恋” から、命を懸ける “大人の愛” への変化が、
次の更なる障害で演出されます。
③鍵…水没直前に脱出
ローズとジャックは再びシャッターに阻まれます。
(一度は開けようとしてくれた船員が、途中で鍵を落として逃げてしまう)
手間取るうちにも水が迫り、ついに二人に命の危機が迫りますが、
ジャックは最後まで諦めず、鍵を拾って解錠します。
「①手錠 → ②シャッター → ③鍵」と “拘束”を象徴する【障害】を二人は力を合わせてクリアしていきますが、
ここでのポイントはローズが常に能動的なことです。
【第二~三幕】にかけて描かれる【障害】は、
“王子様を待つだけ” のヒロインではない、“自由を求めるローズ” というキャラクターにピッタリの演出となっています。
【第三幕】ふたりの別れ|タイタニック号沈没
一度は救命ボートへ移ったローズでしたが、
どうしてもジャックと別れられずにタイタニック号へ戻ります。
そして4月15日 2時20分(衝突から2時間40分後)、
タイタニック号は二つに折れ、船首に引きずられるようにして船尾も沈没。
それでもジャックはローズを守り抜き、ローズはひとり生還を果たします。
ジャックの決断|死んでも諦めない愛
沈没を目の前に、ローズはジャックに精いっぱいの笑顔を作ります。
字幕:初めて出会った場所よ。
この台詞には、最後まで愛を貫くローズの意志だけでなく、ここまでだという諦観が含まれています。
(二人一緒に、初めて出会った場所で死ねるなら)
そんなローズの内心が、ジャックをますます奮い立たせます。
極寒の海へ投げ出された後も、ジャックはローズを諦めません。
「I need you to swim!」と励まし、ローズを扉の上へ押し上げます。
4月の大西洋は零下2度。
乗客の大半は心臓麻痺なら数分、低体温症でも長くて20分程度で死亡したと考えられています。
(参考:タイタニック (客船) – Wikipedia)
自らの死を悟ったジャックはローズに言います。
“ジャックの描くローズの未来” は、
本当なら、ジャックが “自分でローズと叶えたかった未来” です。
しかし、どうしてもそれは叶わない。自分では叶えられない。
だからこそジャックはローズに約束させます。
つまり、他の何を諦めても “ローズの生だけは諦めない”。
□ let go =手放す、解放する
この「Never let go.」に含まれる約束は、この場での生還だけではありません。
男のように馬に乗る自由、そういう自由な人生を歩むこと、誰にも縛られずに生きること、
“ローズの望む人生”、それら全てを含む大きな約束です。
ローズが見上げる自由の女神像|これ以上ない解放の象徴
かろうじて救出されたローズは、本来、タイタニック号で向かうはずだったニューヨークに到着します。
そして、ローズはキャルの捜索をかわし、船員に「ローズ・ドーソン」と名乗ります。
そんな彼女が見つめる先に立っているのが「自由の女神像=Statue of Liberty」です。
この「Liberty」は「自由」を意味する単語ですが、「Freedom(自由)」とはニュアンスが異なります。
①〔選択の〕権利、自由
②〔束縛からの〕解放、自由
③〔政治的に認められた権利としての〕自由
④〔社会規範に反した〕無遠慮、不作法、ぶしつけ
⑤〔状況が許さない〕勝手、気まま
⑥〔成功の保証がない〕冒険、危険
□ Freedom=先天的な「自由」
ここには、ジャックが「Never let go.」とローズに約束させたことの全てが詰まっています。
これこそが映画『タイタニック』のテーマでもあります。
・アメリカ合衆国の独立100周年記念に、フランス人(独立運動を支援)の募金によって贈呈された。※1886年完成
・アメリカ合衆国の自由と民主主義の象徴
・足元には引きちぎられた鎖と足かせ(全ての弾圧、抑圧からの解放と、人類は皆自由で平等であることを象徴)
(参考・引用:自由の女神像 (ニューヨーク) – Wikipedia)
【エピローグ】ラストシーンの結末を解説|ローズの迎えた幸せな未来と終わり
84年前のラブストーリーをローズが語り終えた時、
冒頭で宝探しに躍起になっていたトレジャーハンター(ロック・ロベット)の価値観は一変します。
確かに「碧洋のハート」には、莫大な金額的価値があります。
しかし、その価値(金額)は「愛」の前では虚しいばかりでしかないことを理解します。
そして、その日の夜、ローズは密かに「碧洋のハート」を海へ沈めます。
エンディングシーン|カットごとに分解
全てを語り終えたローズはひとり、調査船の船尾へ出ます。
・手すりへ上るローズ
(爪先に真っ赤なネイル)
・ローズは束の間、海を見つめる
(手には「碧洋のハート」)
・「あっ」と声を上げてから、ローズは「碧洋のハート」を海へ落とす
(海へ沈んでいく碧洋のハート)
・満ち足りた表情のローズ
↓
【ローズの船室】
・穏やかに眠るローズのカット
(枕元には金魚鉢と、無数の写真立て)
↓
【在りし日のタイタニック号・時計台の踊り場】
・階下に大勢の乗船客
・ジャックが踊り場でローズを待っている
(手を取るローズはウェディングドレスを着ている)
願いと遊び心|あの日を再現するローズ
84年前、ローズはタイタニック号の船尾で自殺未遂を起こしました。
その時に引き留めたのがジャックであり、先述したようにこれがローズにとっての【出会いのシーン】です。
年老いたローズが再び手すりへ上がった理由は1つしかありません。
目の前には、タイタニック号の眠る大西洋。
あの日のように手すりへ上れば、もしかしたらジャックがあの時のように来てくれるかもしれない。
ここには、そんなローズの願いと遊び心が込められています。
冒頭シーンに繋がるエンディング|ローズのフットネイルの意味
先述したように、ジェームズキャメロン監督は、冒頭の陶芸シーンによってジャックに見守られて生きるローズを演出しています。
ローズの心には、あの日からずっと最愛のジャックがいた。
ジャックに “見守られて生きる” ということは、
言い換えれば、常に “ジャックの目” を意識して生きてきたということです。
フットネイル(ペディキュア)もその1つです。
101歳になった今もローズが足先(普通は人目に付かない部分)まで気を払っているのは、
永遠の恋人・ジャックの目を意識してこそであり、
男性のように自由を謳歌した一方で、ローズが女性であることも楽しんで生きてきたことを表す描写となっています。
老いたローズだからこそのハッピーエンド|現れないジャック
生還したローズは、きちんとジャックとの約束を果たしました。
自由を掴み、“子供を産み育て、幸せに歳を重ねて老婦人”※になりました。
※沈没後、ジャックがローズに言い聞かせた未来図
そして今また、タイタニック号の沈む大西洋を見下ろし、手すりに上ります。
(あの日のように、来てくれないかしら)
そんな声が聞こえてきそうなシーンですが、
観客の目にはもちろん、ローズの目にも “ジャックの幻” は映りません。
これはもちろん、ジャックが現実的に死んでいるからですが、ローズにとっては違います。
ローズの心には今もジャックが生き続けています。
そんなジャックがローズに “幻すら見せない” のは、ローズ自身がもうあの頃のように “死にたい(逃げたい)” とは思っていないからです。
婚約者・キャルから逃れ、「ローズ・ドーソン」として生きてきたローズには、
数々の写真立てが物語る “幸せな今” があります。
だから、ジャックは “会いに来ない”。
ジャックには、今のローズを制止する必要がないわけです。
一方で、これは次のように読み解くこともできます。
↑だからジャックは制止しない=ローズの死を阻止しない
↑これをローズもわかっている=“もうすぐ会える”と確信している
『タイタニック』の【ラストシーン】は、
【船室で眠るローズ】→【在りし日のタイタニック号でジャックと結婚するローズ】へとシーンを移し、物語の幕を閉じます。
「ローズは死んだ」、「ローズは夢を見ているだけ」と未だに論争の続くほど、
余白の残る【エンディング】です。
どちらが正解と言い切ることはできませんが、
ひとつ言えるのはジャックの描いた “幸せな未来” を実現し、「碧洋のハート」を海へ隠したローズには、もうやり残したことがないということです。
(「碧洋のハート」の露見だけが最後の気掛かりだった。だからこそ、ローズは101歳まで生き永らえていた)
ジャックは死ぬ直前、ローズへこう言います。
注)日本語字幕そのままではありません。英語の台詞を直訳するとこのような意味になります。
ジャックとの最後の約束は、「温かいベッドで死ぬこと」。
17歳のローズにとって、ジャックとの死別はこれ以上ない悲劇でした。
しかし、84年もの歳月を生き、全ての約束を果たした101歳のローズにとっては違います。
今夜か、数日後か、数年後か――。
やがて迎える穏やかな死こそ、ジャックと再会できる【ハッピーエンド】です。
どこまでも悲劇的な『ロミオとジュリエット』とはひと味違う、この “悲劇の逆転” にこそ『タイタニック』の愛され続ける理由があると私は考えています。
ここまで長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
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【参考サイト一覧】
・タイタニック : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)
・タイタニック |映画/ブルーレイ・DVD・デジタル配信|20世紀スタジオ公式 (20thcenturystudios.jp)
・タイタニック (1997年の映画) – Wikipedia