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【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Beginning【5】禁門の変(長州の都落ち)

るろうに剣心 最終章 The Beginning|大友啓史監督

(使用写真映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』公式サイト (warnerbros.co.jp)

こんにちは、ユリイカです。
第5回目となる今回も、引き続き『るろうに剣心 最終章 The Beginning』のストーリーを、シーンごとにネタバレありで解説していきます。
※ネタバレなしの解説は、【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Begining|【1】ストーリー解説(ネタバレなし)をご参照ください。

禁門の変:長州の都落ち

池田屋事件は、新選組の活躍で幕を閉じます。
(新選組にとっては初の晴れの舞台。テロを未然に防いだ大手柄となります)

一方、池田屋事件をきっかけに長州の京での立場は悪化。禁門の変で御所(天皇のいる所)に向かって大砲を打ったことで、朝敵(天皇の敵)として追われるようになります。

巴の持ちものは「日記」と「懐剣」のふたつだけ

新選組の御用改めも、ついに小萩屋に及びます。
手を取り合って脱出する剣心と巴。

このとき、巴は日記とともに懐剣を抱いて逃げます

懐剣は、古くは武家の女の嗜みとされていました。
「自分の身は自分で守る」。切腹が武士(男)の誇りだったように、いざという時、女性も誇りをもって自害することが武家の作法となっていたのです。

つまり、懐剣=「誇りを守る」ためのアイテムです。
これは、巴が武家の女であるという伏線であると同時に、それだけの覚悟をもって剣心に近づいたという暗喩でもあります。
(渡り廊下を進む新選組と、その真下で息を潜める剣心と巴。このシーンも立体感のあるとても面白い構図になっていますね。また、“表舞台の新撰組”、”水面下に潜む長州” という力関係の表現にもなっています)

また、この日記もストーリー上の重大な伏線であると同時に、
日記=「過去(清里のために生きる日々)」を象徴するアイテムとなっています。

巴はラスト、辰巳との対峙前にも、日記を綴ってから剣心のもとを去っていきます。
つまりは遺書ですが、「清里のために生きる日々」が終わったということの表現でもあります。

束の間のふたり暮らし

桂小五郎をはじめ、長州の仲間たちは離散。
剣心は巴と共に京の外れへ身を隠します。

剣心の変化:食事シーン

「できれば形だけでなく」という剣心の告白に巴も応じ、ふたりは夫婦として暮らすようになります。

土を耕し、野菜を植え、収穫したものを食べる
穏やかな暮らしの中で、剣心は少しずつ笑うようになり、人間らしい感覚を取り戻していきます
小萩屋では機械的にしか食べていなかった剣心がおいしそうに食べる姿に、だんだんと巴も笑うようになっていきます。

降り始めた雪は、観客の心に “不安” となって積もる

ここでは少しずつ少しずつ、小さな幸せを噛み締めるような、ふたりのシーンが重ねられていきます。
一方で、穏やかなシーンが続けば続くほど、観客の不安は募る
その不安を可視化するように、季節は秋から冬へと移り、が降り始めます

ふたりの訪問者

『The Beginning』では、ストーリーとともに季節も効果的に変化します。

剣心と巴が生気を取り戻した実りの秋から、
しんしんと雪の降る冬=死の季節へ。

そこへ飯塚と、巴の弟・縁がそれぞれやってきます。

 “飯塚” = 暴走する志の象徴

ある日、ふたりのもとを飯塚が訪れます。
本当の夫婦所帯のようじゃな」という飯塚に対し、巴は「畑を見てきます」と席を外します。

このときの巴は、照れているにしては硬い表情をしています。

セリフや映像で明言こそされませんが、 “本当なら清里と所帯を持っていたはず” という巴の後悔と罪悪感のリアクションになっています。
また、飯塚の登場に、剣心の表情も京にいた頃のような硬いものに戻ってしまいます。

当座の資金と、薬の行商のための道具を置いて帰っていく飯塚。

ここで

飯塚の裏切り(佐幕派への寝返り)
闇乃武の辰巳の暗躍
・闇乃武に巴の弟・雪代縁が加わっていること

が明かされます。

飯塚は、桂小五郎の側近です。
長州派の志士として奮闘しているひとりであることは間違いありませんが、
彼の行動・言動はときに、“目の前で起きている動乱” にただ翻弄されているだけのようにも見えます。
とても “高い志” があるようには見えず、だからこそ、映画前半での桂のうんざりしている描写があります。

飯塚は、暴走する志によって、”小さな何か” が犠牲になっていく時代の象徴として描かれていることがよくわかりますね。

縁の訪問と、確実に回復し “鈍る” 剣心

十二月廿八日(12月28日)。
日記を書いている巴のもとに、縁が訪ねてきます。

ここで時系列を整理すると、

1863年 奇兵隊が組織される(剣心も参加する)
1864年 池田屋事件(6/5)→ 禁門の変(8/20)
剣心と巴が穏やかに暮らせたのは、たったの4カ月ということになります。
ですが、その半年足らずで剣心は確実に回復してきていました。
しかしその一方で、鈍くなってしまった面も描かれます。
(行商から戻った剣心に、睨みを利かせて駆け去る縁を見て)
剣心「姉上が取られるようで心配なのだろう」
初めて知った弟の存在にも、隠棲しているにもかかわらず訪ねて来ることのできた理由にも、剣心はまったく疑念を抱きません
降る雪を見上げ、「どうりで冷えるわけだ」と気を緩めています。(剣心だけが、雪に不安を覚えていません
そんな剣心を見つめる巴(=観客の心境)。
この時の巴の心境=「縁が闇乃武に加担していたことへの不安ですが、
実は、辰巳の思惑(桂の懸念)通りに事が運んでいるという状況です。

縁の衣裳が表すもの

『The Final』では鮮やかなオレンジの衣裳で暴れ回る縁ですが、
『The Beginning』では漆黒の衣裳を身に付けています。
(”衣裳について” はまた別の記事で考察予定です)

思えば、京で人斬りとして暗躍していた剣心も、ずっと黒の衣裳で身を固めていました。

縁もまた、“昔の剣心のように”、組織(闇乃武)を “信じて加担している

そのことを効果的に暗示する配色になっています。