(使用写真:映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』公式サイト (warnerbros.co.jp))
こんにちは、ユリイカです。
第7回目となる今回も、引き続き『るろうに剣心 最終章 The Beginning』のストーリーを、シーンごとにネタバレありで解説していきます。
※ネタバレなしの解説は、【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Begining|【1】ストーリー解説(ネタバレなし)をご参照ください。
不幸と裏切りのストーリー
辰巳のもとへと向かった巴を追いかけ、剣心も山の御堂へ向かいます。
ここまでのストーリーの流れを整理すると、
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巴:清里の復讐のために闇乃武に加担
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縁:巴を追って闇乃武に加担する
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祇園祭・池田屋事件(1964年・夏)
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禁門の変(1964年・秋)
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巴:剣心のために辰巳のもとへ(1964年・冬)
雪代姉弟の不幸は、紛れもなく剣心を発端に始まっていることがわかります。
守ろうと決めたはずの巴の幸せを、そもそも奪ったのは自分だった。
だからこそ、辰巳のもとへ向かう剣心はこれまでで最も生気を失っています。
描かれたのは、裏切りの連鎖
剣心は、最愛の巴に裏切られました。
(愛した人は、自分への復讐者だった)
また、縁も最愛の姉である巴に裏切られます。
(姉の力になりたかったのに、姉は仇を愛していた)
その巴も、辰巳に裏切られます。
(弱みを探るために剣心に近づいたのに、自分こそが剣心の弱みに使われていた)
また、この場外では飯塚の裏切り、冒頭の平田の裏切り※と、『The Beginnig』の根底には常に誰かの裏切りが潜んでいます。
※【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Beginning【2】オープニング~巴との出会い参照
「あのひとは殺させない」
懐剣を忍ばせ、辰巳に立ち向かう巴でしたが、全く歯が立ちません。
どんなに強い気持ちがあっても、力で負ける現実がある。
巴は絶対に辰巳に適いません。
そうやって “小さな何か” が犠牲になっていく時代だったことを、巴が体現するようなシーンになっています。
闇乃武との戦い=剣心への皮肉
巴のもとへ向かう剣心道のりには、闇乃部の刺客が何人も潜んでいます。
その手法、捨て身の攻撃が意味することを解説していきます。
奪われていく剣心の “感覚” =”生” の象徴
闇乃武との戦いの中で、剣心はひとつずつ感覚を奪われていきます。
はじめに聴覚を、
次の鯨波・無名意との戦いでは視覚を失います。
本作における “感覚” は、 “生” の象徴を担っています。
小萩屋にいた頃、剣心は食事もお酒も楽しんではいませんでした。
それが巴との暮らしの中で、きちんと味わえるようになっていく。
その剣心がやっと取り戻した感覚を、闇乃武は無残にも奪っていきます。
剣心と対をなす闇乃武の存在
この正義の衝突によって、巴の象徴する“小さな何か” が犠牲になっている。
辰巳との決戦
刺客の罠を潜り抜け、ようやく剣心は辰巳のもとへ辿り着きます。
これほど露骨に辰巳が説明セリフを吐くのには理由があります。
“感覚” は、カメラに映りません。
耳鳴りの表現、目を閉じて戦う演技の補足として、セリフで状況を補っています。
辰巳と剣心の立ち位置
満身創痍でやってきた剣心に、辰巳は正面から歩み寄ります。
このときのアングルは平坦で、どちらが上でも下でもありません。
闇乃武が剣心と対をなす存在であることは先述した通りです。
これまでのシリーズのように、ラスボスである辰巳が剣心を高みから見下ろさないのはこのためです。
(【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Beginning【3】剣心と巴~祇園祭参照)
ふたりの勝敗を分けた “巴” という存在
剣心と辰巳の戦い(=討幕派と佐幕派の戦い)は、いわばエゴの衝突です。
ですが、それは剣心が以前までの「人斬り抜刀斎」であればの話です。
この時の剣心は、討幕派として戦っているのではありません。巴のために戦っています。
本当の意味で、“小さな何か”のために戦っている状態です。
これが、辰巳の「なぜ戦う。誰のために。何のために」という問いに対する剣心の答えです。
だからこそ、巴が味方をして、剣心が勝つ。
また、このときのアクションを整理すると、
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それを辰巳は巴の懐剣で防ぐ
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剣心が返り討ちにされそうになったところへ巴が割り入る
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剣心が(そうとは知らずに)巴ごと辰巳を斬り捨てる
悲しい結末ですが、これほど完成した結末もありません。
更に一人ひとりにフォーカスして分解すると、
・自分を犠牲にして(=肩を斬らせて)でも巴を守ろうとした
・”感覚” を失った状態で、辰巳を斬り伏せる
・”感覚” を取り戻した時、巴も斬っていた
・最後まで巴(=懐剣)を利用して勝とうとする
・巴の命懸けの妨害に遭う
・剣心に斬られる
・剣心の捨て身の一撃を、辰巳が懐剣(=女の誇りの象徴)で防ぐのを見る
・命懸けで辰巳を押さえる
・辰巳と共に剣心に斬られる
剣心と巴が互いの命を懸けて守り合おうとしたことが、こうして見るとよくわかります。
多くを語らない “巴の雄弁さ”
辰巳とともに巴は倒れます。
気付いた剣心がそっと目を開ける。
雪の舞う中、とても静かで悲しい、美しいシーンです。
そして、巴が剣心の頬に2つ目の傷を刻み、十字傷が完成する。
剣心にとっての頬の傷は「人斬りとして犯した罪の象徴」です。
しかし、巴にとっては「清里の残した “生” の爪痕」です。
(【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Beginning【6】巴の正体参照)
巴は清里の “生” に自身を重ねると同時に、剣心の罪に寄り添います。
巴の最期のセリフ
公開当時、わたしはIMAXで鑑賞したのでしっかり聞き取れたのですが、
通常上映で観られた方のなかには「聞こえなかった」という意見もあったようです。
念のため明記すると、
これが、巴の最期のセリフです。
「裏切ってごめんなさい」
「愛してごめんなさい」
この「あなた」は、「剣心」とも「清里」とも取れるように非常に深く作り込まれたセリフになっています。
巴が菩薩に見たもの
ひとり取り残された御堂の中で、巴は仏像に目を留めます。
頭部のみの破戒仏ですが、髪を結い上げ、宝冠をかぶっていることから菩薩と推測できます。
「菩薩」という言葉には、「悟りを求める者」という意味があります。
悟りを開く前段階であると同時に、如来(悟りを開いた最高位の仏)となる将来を約束された存在です。
その菩薩に、巴は何を悟ったのか。
思うに、「犠牲の上に成り立つものもある」という現実を悟ったのではないでしょうか。
“小さな何か” が犠牲になっていく現実の一方、その上で実現される未来もある。
その未来を託すために、巴は身を挺して剣心を守りました。