こんにちは、ユリイカです。
第4回目となる今回も、引き続き『るろうに剣心 最終章 The Beginning』のストーリーを、シーンごとにネタバレありで解説していきます。
※ネタバレなしの解説は、【完全解説】るろうに剣心 最終章 The Begining|【1】ストーリー解説(ネタバレなし)をご参照ください。
池田屋事件 新選組視点ではないからこそ、描けること
祇園祭の夜、宵宮の町をひとり彷徨う剣心。そこへ飯塚が火急の知らせを運んできます。
「古高俊太郎(映画前半で登場)が新選組に拉致された」という知らせです。
この古高への拷問によって、新選組は祇園祭の夜のテロ計画※を入手します。
※テロ計画=御所に火を放ち、松平容保(新選組の主)を暗殺、帝(孝明天皇)を長州へ拉致する計画
このテロ計画の会合の場「池田屋」に、桂小五郎(剣心の主)がいると聞き、剣心は慌てて池田屋に向かいます。
※これがかの有名な池田屋事件(1864)です。BGMとも相まって、映画前半のクライマックス感満載のとてもかっこいいシーンとなっています。また、池田屋での戦いが史実に寄せた泥臭い演出となっているのも、さすが大河ドラマ『龍馬伝』の大友監督です。
「亀弥太」って?(大友監督の “土佐愛”)
攘夷派志士「逃げれー! 亀弥太ー!(土佐訛り)」
新選組「ひとり逃げたぞー!」
半死半生の状態で池田屋から逃げた一人の若者=亀弥太。それを追う沖田総司(村上虹郎)。
『龍馬伝』未視聴の方には、このシーンの意味が弱いと思うので少し補足しますね。
実は、池田屋に集まっていた倒幕派の志士たちは、全員が長州の人ではありません。
この時代は、志を共にする人たちがさまざまな藩から集まっていました。
「望月亀弥太」もその一人、土佐藩出身の若者です。
『龍馬伝』では坂本龍馬(福山雅治=『るろうに剣心』比古清十郎)の可愛がっていた後輩キャラクターとして描かれました。つまりは、大友監督のサービス精神であり、「土佐愛」にあふれたシーンとも言えます。
※ちなみに『るろうに剣心 最終章 The Final』で呉黒星を演じた音尾琢真さんが、『龍馬伝』の亀弥太です。こんなところからも大友監督のお人柄が伝わりますね。
【追記】2022.10.06 大友監督最新作『レジェンド&バタフライ』にも豊臣秀吉役で音尾琢真さんが出演されることが発表されました。
“蛍の光” が表すもの
池田屋から命からがら逃げ延びた亀弥太は、沼で喉を潤します。
そこで見たのは無数の蛍の光。
この「蛍」、実は死者の魂の暗喩として昔から用いられてきたモチーフです。
例)スタジオジブリ・高畑勲監督『火垂るの墓』や、古典では平安時代・紫式部の『源氏物語』など
大勢の志士の命がはかなく散っていった幕末。
ほんの短いシーンですが、池田屋の混乱から、この後の剣心と沖田とのアクションをつなぐ、素晴らしい余韻と前兆のシーンとなっています。
剣心と沖田 “剣の天才同士の戦い”
そしてついに、剣心と新選組・沖田総司が出会います。
沖田が本当に実在した人物かどうかは定かでありませんが、定説では沖田総司は「三度の突きが一度に見える」といわれるほどの天才剣士として有名です。
アクション監督・谷垣健司さんも、それをふまえたアクションを盛り込んで下さっています。
ここはぜひともBlu-rayで、目を凝らして見つけてみてくださいね。
アクションシーンの素晴らしさは実際に映画を観ていただくのが一番だと思うので、ここでは
①クリシェ
②背景セット
この2点について言及しようと思います。
クリシェの活用
「クリシェ」とは、簡単に言うと「お決まりの展開」のことです。
「無事に戻ったら(または、「この戦いが終わったら」)、君に伝えたいことがあるんだ」と言って出かけていった登場人物が、やっぱり帰って来ない(死ぬ)、アレです。笑
クリシェは使い方によって
「あーやっぱりね。わかってたよ」と観客をがっかりさせることもあれば、
逆に感動させることもあります。
新選組に詳しくない方でも、沖田総司が結核を患う「薄命の美男子」という設定はご存じなのではないでしょうか。
沖田がゴホゴホやりだしたら、血を吐く合図です。沖田が血を吐いてこその池田屋なんです。
ですが。
なんと大友監督は、それを “はっきり” と映しませんでした。
沖田がゴホゴホやりだした時、画面が映しているのは剣心のみ。
沖田はカメラの外で吐血し、その血が飛んだ灯籠がちらっと映り込む中で戦闘は続きます。
(その後、戦い続けられないほど咳き込み、斎藤一が現れて戦いは中断されます)
このセンスがまさに大友組!という感じで、大好きなシーンの一つです。
背景セット「おみくじ掛け」
(今作で私が一番感動した演出がこれです!)
目にも留まらぬ剣心と沖田の決闘。その中で、刀の切っ先がおみくじ掛けを引っかけ、結ばれたおみくじが散っていく。
「おみくじ」=「人々の願掛け」。
つまり、願いの象徴です。
このセリフが、ここでもまた活きてきます。
「失せ物見つかる」、「待ち人来る」など、おみくじに掛ける願=小さな願いです。
「平和な世のため」や「新時代のため」などのような、大きな願いではありません。
“小さな何か“ が維新志士と新選組、両者の戦いの中で散っていく。
今作のテーマを象徴するこれ以上ない演出になっています。
また、カメラ視点が切り替わっても揺れ続ける「おみくじ掛け」は、アクションの連続性を伝える効果も果たしています。
アクションシーンが、ただのアクションで終わらない。
エモーショナルな要素が含まれているのも『The Begining』の魅力となっています。
見落としそうなほど小さな、剣心の涙
沖田との戦いの後、ついに剣心と斎藤一が相対します。
ここでの剣心の涙の解釈が、私にはとても難しかったです。
“涙の答え” は、背景美術の中に。
とも取れますが、
と気がついたのではないでしょうか。
そのためのおみくじ掛けの演出だったと考えると、背景セットと演技の一体感に驚きます。
“小さな何か” =人々の小さな願い。
それを象徴する“おみくじ掛け” が、戦いによって断ち切られていく。
“小さな何か” の犠牲が見えなくなるほど、斬り合い自体に夢中になってしまっていた。
そのショックに剣心は我に返ったのではないでしょうか。
“人斬り” 時代があっての、新時代の “オロ剣心”
第1作目『るろうに剣心』に次のセリフがあります。
(神谷道場での最初のアクションシーン)
このセリフにたどり着くまでの剣心の葛藤が、『The beginning』では丁寧に描かれます。
幕末の動乱を切り抜け、人斬りだった自分を認めたからこそ、第1作目の “オロ剣心” につながる。
沖田との戦闘シーンには、その過程の苦しみが込められています。
【余談】亀弥太はその後どうなったか。
ストーリーには直接関係がないので描かれていませんが、実は亀弥太、深手を負いながらも長州藩邸まで走ります。
しかし、中への立ち入りが許されずに自刃。(『龍馬伝』ではそこに坂本龍馬が駆け付ける)
蛍の演出は、そんな亀弥太の死の前兆でもあります。